化学療法を受ける患者の就労状況を研究し、がん患者の仕事と治療の両立支援をしたい

看護師 粟野早希
(オブサーバー:主任 大西まゆみ)

― 今回、看護研究に取り組んだということですが、きっかけは何だったんですか
粟野 私はふだん病棟で仕事をしていますが、リリーフで外来に手伝いに行くことになりました。その時、化学療法室で入院していた患者さんと会う機会があり、これまで化学療法で治療をしている患者さんの退院後のことについてあまり意識していなかったのですが、継続看護という視点で自分たちの看護を実践したい思いが芽生え、退院後のお困りごとについて知りたいというのが今回の看護研究に取り組んだ動機です。
大西 私は粟野さんの看護研究をサポートする役割でオブザーバーとして関わることになったのですが、研究を通して、例えば、お会いしたことのない患者さんのカルテなどを見て自分たちの足りていないところにたくさん気づくことができました。入院という初期の関わりしかなく、安全面やスケジュール管理につい目がいき、患者さんの生活背景を理解しようとする意識が希薄だったような気がします。

― 具体的にはどんな研究をされたんでしょうか
粟野 化学療法を受ける患者の就労状況が研究テーマです。当院が地域がん診療連携拠点病院として、がんの患者を受け入れており、平成29年4月1日~平成30年3月31日までに化学療法を行った患者さんは379名いらっしゃいます。治療時間を要し、副作用も出現し、治療の中で一番就労に影響すると考えられる化学療法を受けている患者に限定した実態調査は社会的にはされていないようなので、がん患者の仕事と治療の両立支援を行うにあたって、まずは、化学療法を受ける患者の就労状況の実態を把握してみたいというのが研究のねらいです。

患者さんの生活背景を積極的に理解し、何が大切なのか、適切なのかを考えるようになった

― 研究を通じて、いろいろなことに気づかれたと思いますが・・・
大西 調査対象は就労世代を選び、アンケートを取ることにしたのですが、91名中57名も返答があったことに驚きと喜びがありました。一般的なアンケートの回答率を考えると過半数以上が回答を下さったことで、当院が信頼されているということと化学療法を受ける患者さんの訴えを知ってほしいというメッセージと捉え、この研究に対する熱意が増しました。
粟野 両立の大切さ、難しさ、生活費や治療費の金銭面の大変さ、治療間隔を空けてほしいという病院への要望、再発への不安の中で、「生活を維持するため、生きがいのため」という回答が最も多かったが、引きこもり予防や気分転換のためという意見もありました。これまでは患者さんが、「今、仕事を休んでいるんよ」と仰っても、「そうなんですね」と普通に会話をしていましたが、この研究をするようになってから、患者さんへのアプローチが大転換しました。何が一番変わったかというと、情報を取りにいこういうスタンスです。患者さんの生活背景を理解するために、患者さんに負担をかけない程度に、自然に話題をこちらから提供して、そこから情報を得て、この患者さんに適した看護は何かを考えるようになりました。研究をしたおかげで、患者さんとコミュニケーションの幅が広がり、関わりがこれまで以上に楽しくなりました。
粟野 それと、患者さんが退院してからどうなっていくのだろうということを予め考えるようになりました。患者さんのデータが並んでいても、その方の生活はイメージできません。化学療法を希望するかどうか、そして、どんな生活を望まれているのか、その患者さんにとって何が大切なのかを、外来にどうつないでいけばいいのかなどを考えることに対して、広い視野でものを考えるようになれたので、私にとっても大変いい経験になりました。

「実践に繋がる研究」を楽しむことによって一歩踏み出すことができ、成長実感を得ることができた

― 大西さんは、管理者として他のメンバーの皆さんにも看護研究をお勧めしたいのではないですか
大西 そうですね。若いスタッフにはまだ余裕がないかもしれませんが、単に日常の仕事をこなすだけでなく、患者さんはひとり一人想いも違うので、その想いにどう寄り添うかということを考えるためにも、看る力を養い、アセスメント力を高めてもらいたいと普段から思っています。そういう意味では、看護研究は、学びが深められ、視野が拡がるので、看護に対する取り組みに対してとてもモチベーションが上がるので、看護師がキャリアアップする上では非常にいい機会になると思います。
粟野 大西主任の仰るとおりで、学生時代の研究とは違い、「実践に繋がる研究」は興味・関心が拡がり、本当に楽しかったです。そして、知見を得ることで一歩踏み出せるので、日々の仕事の中の気づきも増え、成長実感を得ることができました。研究のおかげで、院内の連携のみならず、院外にも目が向けられるようになりました。看護師が介入できることはまだまだあると・・・。地域をしっかりと見ることができる看護師を目指したいと思います。