患者さんや仲間のことを日々振り返り、人間関係が広がり、深まるのが看護の仕事の魅力

森川礼子
私は、もともと銀行で働いていましたが、その後、クリニックで受付、看護補助者を経て、看護師になりました。初めは手に職を付けようという動機でしたが、次第に看護師の仕事が楽しくなり、もっといろいろなことにチャレンジしたいと思い、この病院で働く機会を得ました。この仕事の魅力は、人間関係が広がり、深まることだと思います。調子が悪い患者さんが良くなる過程に関われることは喜びです。一方、良くならない患者さんもいらっしゃいます。その方の気持ちに寄り添い、いかに希望に添えるかを考えていくことも貴重な経験です。そんな辛いはずの患者さんが私たち看護師の体調を気遣ってくれたりすると、自分の生活や人生も大切にしようと感じます。患者さんのこと、仲間のことを日々振り返り、次に活かそう、明日はもっといい日にしたいと考えて、毎日を過ごせるのはこの仕事の大きな魅力だと思います。現在の職場は循環器病センターですが、循環器疾患は高齢の方が多いため、認知症がある患者さんもたくさんおいでます。認知症患者さんの、インシデント、転倒、抑制を減らすことが課題となっています。私はこれまで、課題に対して経験値で対応していましたが、その原因を考えていく中で納得性の高い方法を勉強したいと思い、今年、認知症看護認定看護師の資格を取得しました。

入院早期から認知症症状に対して予防的に取り組み、元の生活に戻ることを意識して取り組んでいきたい

副主任という立場は、指導する立場でもありますので、根拠を示し、納得性の高い指導が求められます。何か新しい取り組みをする際もやはり納得性の高いことが優先されます。私は指導において「納得性」を大切にしています。それを意識して関わったことで、スタッフの意識も変化してきたように感じています。認知症の方の言動に対して、『なぜ』と考えるスタッフが増えてきました。例えば、「家に帰りたい」と言われたときに、『なぜ』帰りたいのか患者さんの気持ちを考え、それに対して自分ができることは何かを考えるようになりました。医療者の視点ではなく、患者さんの視点で考え、患者さんを一人の人として、その人にどう関わるかということも大切にするようになってきたと思います。自分が変わることで相手も変わります。看護師の対応一つで患者さんが変わることを実感できたことが視点の変換に繋がったのではないかと思います。急性期治療を行うのが急性期病院の役割ですが、治療と並行して、入院直後から個別性のある認知症看護を提供し、認知症症状の悪化を防ぎ、少しでも早く元の生活に戻れるようにすることが必要です。疾患の治療と認知症症状の両輪で捉えて、その人の生活を意識して取り組むことが私たちに求められていることだと認識しています。そのために、入院前のADLや認知症症状などの情報収集を行い、その情報を基に入院によって起こり得る症状に対する対策を考えるためのカンファレンスを入院早期に実施し、関わり方について考え、みんなで対策を共有することを実践しています。

自部署の良い変化が定着するための人材を育成し、自らもまだまだ看護を追究して成長したい

こうして、インシデント、転倒、抑制は減少しました。私は、認知症看護認定看護師として知識を得たことで、根拠づけて説明できるようになり、自部署の良い変化に少しは貢献できたのではないかと感じています。これからは、この良い変化を定着させなければいけないと考えています。そのためには、私がいなくてもできる状態にする、人材の育成に力を入れたいと思っています。また、私たちの病棟で成果が上がったところについては、できるだけ発信して、各部署で参考にしてもらい、病院全体が良くなるように役立ててもらいたいと思っています。もちろん、私たちも他部署からたくさんのことを学びたいです。そういう意味では、3年前から実施している「看護の質・発表」を最初のステップにして、やろうという気持ちになったきっかけ、どの部署でもできること、実際に実施した方法を発信し共有したいと考えています。根拠づけて、納得性を高めると、みんなが「やってみよう」という気持ちになり、「やってみたら患者の変化を感じられた」という経験を得て、自ら様々な可能性を考えるようになり、自分の可能性も感じてくれるようになったと思います。まだまだ看護を追究したいですし、みんなと共に成長していきたいと考えています。