ある患者さんとの出会い

month-nurse60看護師 福田木綿子
将来自立できる女性でいたいと思った私は、手に職をつけようという気持ちで看護師をめざしました。当院を選んだのは、地元で大きな病院だという事、そして知人から雰囲気がいいと聞いていたのが理由です。
看護師になってずいぶん年月が過ぎましたが、未だに脳裏から離れない患者さんがおり、その方への対応の後悔の念が、今の私を育ててくれている気がしています。
その後悔とは、私がまだ新人の頃の出来事です。その患者さんは40代後半の男性でした。すい臓がんで手術をしたのですが経過は思わしくなく、ベッド上での生活を余儀なくされていました。訪室しても眼を合わせることもなく、時おり暴言を吐いては、その言葉が私の胸に突き刺さり、ショックで涙することも・・・。そして私の中でその方は「厄介な患者さん」になっていきました。

自分勝手な対応に後悔の念を抱いて

ある日、夜勤で出勤すると、その方が亡くなっていました。「あぁもう嫌なことを言われなくて済む」そう思って、私は死の知らせにホッとした感覚を今でも覚えています。
それから数年後、ふと私の記憶にその患者さんが表れたのです。そして、あの時自分は何と身勝手だったのだろうと後悔しました。40代という若さで、死を目の前にした人の恐怖や悔しさは計り知れません。そんな患者さんの気持ちに触れることなく、自分が傷つきたくないという事だけを考えていたことは大きな深い後悔でした。「きっと患者さんは気持ちをぶつけてくださっていたんだ。それを受け止め、和らげるのが看護なのに、自分はミスのないように業務をしていただけだった」と思い、私の対応は「看護」ではなかったことをふり返りました。そして今後、もしそんな患者さんに出会ったら、その人だと思って関わろうと心に誓ったのです。
申し訳ないことをしてしまったその患者さんは、私の看護に対する姿勢を正してくださる大切な人として、今も私の心に生きています。

患者さんから力をいただく仕事

今は手術室に勤務しているのですが、術後訪問で院内の廊下を歩いていると、喉頭を摘出したという患者さんがボイスチェンジャーを使って発声練習をしているところに出くわしました。一生懸命練習されているその姿は、キラキラ輝いているように見え、前向きに生きることの素晴らしさを感じた私・・・。「私の声聞こえますか?」「言葉は聞き取れますか?」と懸命に話しかけてくださるその方を見ていると「私も頑張らなきゃ」と思い、疲れも吹っ飛びました。
その方との対話で大きな力をもらえたことへのお礼を伝えて、その場を後にしたのですが、看護師って患者さんから教えられ、患者さんから元気を頂く仕事なんだと痛感しました。
実は今、妊娠中で冬には赤ちゃんが産まれます。少しお休みをいただきますが、新たな体験や環境の変化を通して、また新しい視点が生まれるのではないかと期待しています。母になっても、いつまでも看護に携わり、自分の成長とともに自分の看護をもっと深めていきたいと思います。

 

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福田木綿子さんを推薦します。
普段手術室看護師として、テキパキと仕事をこなす男前な福田さんです。しかし対患者さんとなると、素晴らしい感性を持っており、そのギャップに驚きと感動を覚えました。
これまで関わった忘れられない患者さん。その時の後悔から今は、一人一人の患者さんとの関わりをすごく大切にしています。患者さんとの関わる時間の少ないOP室ですが、福田さんの姿勢はスタッフに良い刺激を与えてくれていると思います。
中央手術部  守谷正美