患者の思いの実現にむけて~倫理的視点からの取り組み~ 

西5病棟

脳外科病棟の看護師が果たすべき3つのこと

 脳疾患の患者は、急激な発症によって身体機能が大きく変化し、社会的、精神的にダメージを受けている方が多くいます。そのような患者に対して私たちが果たすべきことは次の3つであると考えています。

  1. 急性期の身体機能の観察:フィジカルアセスメントや身体機能の変化を確認し、カンファレンスで情報共有すること。
  2. 経過に合わせたケア・リハビリの提供:同じケアを継続するのではなく、その時の状態に合わせて身体機能が改善するように働きかけること。抑制は「脳外科だから仕方ない」ではなく、自立・自律を妨げていないか見直す。
  3. 個々の状況に合わせた退院支援:入退院前確認シートで困りごとを確認し、本人・家族と共有すること。社会的側面や認知機能が低下する方も多いので、精神的なサポートも含めた対応が大切。

これらのことが、脳外科病棟の看護師の役割であると考えます。

「日々のカンファレンス」と「退院調整カンファレンス」で情報を共有

 「日々のカンファレンス」では、入院中のケアの方向性の検討を目的にしており、具体的なケアの見直しや、身体機能改善に向けた働きかけ、離床のタイミングや環境整備、身体抑制最小化に向けた取り組みについて話し合っています。週に1度、多職種で行っている「退院調整カンファレンス」では、退院後のサービス調整を目的に、退院後の生活目標や退院先の検討、退院指導について話し合っています。
 昨年まではテーマカンファレンス以外のカンファレンスができていなかったので、今年からはディスカッションテンプレートを使用して、気になる症例のカンファレンスを実施するようにしました。その結果ディスカッションカンファレンスの件数は増加しました。
 これまでは看護師が行う退院調整カンファレンスと、医師が参加するリハビリカンファレンスが別々に行われており、看護師の意見が退院調整に反映されていないという課題がありました。そのため、多職種合同で「退院調整カンファレンス」を行い、早期から意見交換を行いました。その結果、看護の質アンケートの退院後の援助の項目では、患者評価・看護師ともに上昇しました。

患者の思いに多職種で対応し退院支援を勧めた一例

 Aさんは、他院で脳動脈瘤によるくも膜下出血に対するコイル塞栓を行い、当院に転院されました。転院時は、レビン、バルンカテーテルが挿入されていました。術後に呼吸器管理されていたため気管切開していましたが、呼吸状態は安定しており、気管切開部は自然閉鎖を待っている状態でした。
転院後せん妄状態になりましたが数日で改善し、転院7日目には嚥下機能は回復し経口摂取が可能となりレビン、バルンを抜去できました。しかし、下肢筋力の低下があり転倒リスクが高く、トイレ移動時などは付き添いが必要な状態でした。
 Aさんは、亡くなった旦那さまの形見の猫と一緒に過ごしたいと、自宅退院を希望していました。しかし、長男は「自宅で転倒したら危ない。もう少しリハビリをしてほしい」と転院を希望されており、医師やリハビリスタッフも安全を考慮して転院を勧め、転院調整を行い転院日も決定していました。しかし、Aさんは転院を嫌がって摂食や服薬を拒否し、リハビリやケアも拒否され、家族との会話も減って、本人の思いと家族・医療者の思いに相違がありました。このような状態を見て、看護師はAさんの思いに反して、このまま無理に転院手続きを進めてもいいのだろうかとジレンマを抱いていました。
 そこで、本人、家族の思いを再度確認し、お互いの思いを表出できるように話し合いの場を設け、医師の思いも伝えて、どうすれば自宅退院が可能か考えました。

  • 本人:自分のことは自分でしたい。猫の世話をしたい
  • 家族:自宅内は安全に歩行できるようになってほしい。簡単な家事は自分でしてほしい。内服は自己管理してほしい
  • 医師:歩行能力の改善、せめて自宅内の安全な歩行。服薬の順守。食事摂取量のアップ

 それぞれの思いを踏まえて、自宅退院の目標を達成するために他職種と連携し、家族にも協力を依頼しました。退院先が自宅退院に変更になったことで、Aさんは食事や服薬を拒否することがなくなり、リハビリにも意欲的に取り組み始めました。
 下肢筋力の低下があったため、転倒せずに安全に室内を歩行できるように、歩行能力の変化に合わせてベッドの位置を変更し環境整備をしました。歩行が安定してきたらADL拡大のためにリハビリ室まで見守りで歩行練習し、リハビリの様子を家族に見学してもらい理学療法士から状況を伝えてもらいました。また、自宅内環境や動線などの情報をリハビリに提供し、安全で生活に必要な家事動作のリハビリを依頼しました。薬は確実に内服ができるように一包化を依頼し、お薬BOXを使用するとともに、家族に飲み忘れがないかの確認を依頼しました。
 Aさんには、「何でも自分でしようと頑張らずに、困ったことがあれば家族に頼ったり誰かに相談することも大切ですよ」とお伝えしました。
 その結果、本人・家族・医療者が協同して、自宅退院を実現することができました。

患者、家族の思いを、多職種がカンファレンスで共有して実現できるように

 今回の症例は、患者の希望に沿うためには何が必要かを話し合うことから始めました。自宅退院というゴールに向け、患者・家族、そして多職種が協同することで達成できた事例でした。
 私たちはこれからも本人、家族の思いをくみ取り、その思いが実現できるように調整役として他職種に働きかけていくこと、カンファレンスで得た多職種の複数の視点をケアに活かすことを心掛けていきます。