本人・家族の思いを傾聴し他職種連携で自宅退院を実現

南4病棟

家族の協力を得て外出を経て自宅退院した事例

 Mさんは肺気腫で急性増悪を繰り返しており、2023年7月中旬に呼吸状態悪化のために入院されました。常に酸素吸入が必要で、呼吸の状態によりネーザルハイフローを使用していました。体調が良いときは自室トイレへの歩行が可能でした。怒りっぽい性格で関わりの少し難しい方でした。
認知症のある妻との2人暮らしで、娘さんは近所に住んでいて協力が得られます。経済的には問題ありません。今度、呼吸状態が悪化した際には挿管や人工呼吸器の装着は希望されず、娘さんはネーザルハイフローまでを希望されています。
 診療の補助としては「酸素投与」「SpO2=80%以下でネーザルハイフロー装着」「モニター監視」「抗生剤3回/日投与」「オムツかぶれに対して皮膚科紹介依頼⇒軟膏塗布介助」がありました。
 療養上の世話としては「清潔援助:状態に応じて清拭・特浴介助」「排泄援助:尿器・ポータブルトイレの設置」「転倒予防:転倒歴あり外傷予防のための緩衝マットの設置、ポータブルトイレ設置場所の工夫」「食事:病院食拒否あり(家族の持参した軽食を自分のペースで食べていた)」がありました。

本人は自宅退院を希望するも、家族は認知症が心配で拒否

 本人の意向としては自宅退院を希望されており、なんで連れて帰ってくれないのか、帰れないのならもう死んでもいいなど悲観的な発言も聞かれていました。娘さんはMさん、母親ともに認知症があるので2人きりで自宅で生活させることを心配されており、自宅には帰れないと看護師から説得してほしいと頑なに自宅退院は拒否されていました。どうしても自宅というならリフォームが終わるまでは厳しいとの声がありました。
 本人と家族間で意見の相違があり、私たちスタッフとしてはMさんの希望をかなえてあげたいが家族が無理と言っているので転院を進めるしかないか…と本人の希望をかなえてあげられないもどかしさを感じながらも退院調整看護師とも相談しながら転院方向で調整をすすめていました。転院案内を待っていましたが、転院待ちのあいだに再び呼吸状態が悪化しネーザルハイフローを装着しての入院生活を余儀なくされました。
 Mさんの疾患は完治することのない疾患であり、増悪と寛解を繰り返します。現在のMさんの状態を考えると今度また増悪することも考えられます。今のタイミングが自宅退院できるチャンスではないかと看護師間でカンファレンスを行い、主治医に再度家族への病状説明を依頼しました。

外出を経験し、家族の気持ちも変化し自宅退院へ

 Mさんは長期入院によるストレスもあり気分転換に外出することを強く望んでいました。主治医からの説明後ご家族の気持ちの変化があり、状態が落ち着いたタイミングで外出する運びとなりました。
 外出から無事帰院し「散髪してラーメンも食べた」といい笑顔で帰ってこられ満足している様子でした。外出し、Mさんは自宅へ帰りたい気持ちが増しているようでした。また、ご家族も想像していたよりはMさんの移動などもスムーズであまり手がかからなかったと話してくれました。
 娘さんから不安はあるがサービスを利用していろんな人に助けてもらいながらであれば自宅退院させても良いかな…と前向きな返事を聞くことができ、自宅退院に向けての調整がスタートしました。介護保険が未申請であったため退院調整看護師からも申請を勧めてもらい、さまざまなサービスの調整を行いました。
 退院後もCO2貯留を防ぐため夜間のNIPPV(非侵襲的陽圧換気療法)の継続的な使用が必要であり本人と家族に必要性の指導、使い方の説明を業者とともに行いました。年明けからサービスが利用できるよう調整し、年末に無事自宅退院の運びとなりました。
 HOT(在宅酸素療法)、NIPPVを使いながら自宅療養ができていると、退院調整看護師からの情報がありましたが1月14日に再び急性増悪されICU入室後、当病棟に入院中です。

状態を見ながら試験外出・外泊で自宅退院も視野に

 私たちスタッフも自宅退院は諦めかけていましたが、病態をご家族に理解してもらうことで外出ができ、自宅でのADLを見てもらうことで自宅退院も視野に考えてもらうことができました。外出や外泊に制限がある中ではありますが、状態をみながら必要に応じて試験外出泊することの必要性を再認識しました。再度増悪し2週間ほどで再入院となりましたが恐らく今後もこのような経過を繰り返すと思われます。
 うまく疾患と付き合いながら療養ができるように本人やご家族の思いを傾聴し、他職種とともに今後も介入していきたいと思います。