西7病棟
増え続ける患者さんに対して「倫理」の視点でカンファレンスを実施
西7病棟はおもに骨折・脊椎疾患などによる手術適応の患者さんが多く、予定に加えて緊急で入院や手術になる患者さんも多くいます。2023年度は12月までに入院患者564名、手術件数は686件に達しました。さらに認知症患者さんや、術前後のせん妄や看護必要度の高い患者さんへの対応もあります。病棟はほぼ満床であり、業務と共に患者さんのニーズを満たすためにやるべきことは山積みでした。
患者さんのニーズに応えるにはどうしたらよいかを考え、カンファレンスに「倫理」の視点を追加しました。入院から退院までの在院日数は短縮され、リハビリが継続して必要な場合も包括病棟へ転棟や転院となるため患者さんと関わる時間はそれほど長期間ではありません。そのため主に身体面や精神面を重点的にとらえがちですが、倫理も大切な看護の一面でありおろそかかにはできないものと考えたためです。
その結果、毎月平均して2件は倫理についてのカンファレンスを行うことができました。そのうちの1例を以下に紹介します。
10年間の透析の打ち切り後もQOLを保てるように働きかけた事例
患者Yさん、70歳代女性。糖尿病と慢性腎不全があり2013年から透析を導入していました。2022年4月に左下肢切断後、右下肢も壊疽(えそ)があり2023年2月に右下肢を切断しました。同年の10月より四肢に痂皮(かひ)を示す紅斑(こうはん)が出現し、左手背に蜂窩織炎(ほうかしきえん)がありました。本人の希望で整形外科へ紹介され、当病棟に入院しました。11月ごろより徐々に透析中の血圧低下があり十分に透析ができない状態となりました。内科・整形外科の医師から今後は透析が行えず自然の看取りになる可能性があるとインフォームドコンセント(十分な説明と同意)され、家族は理解されているが涙ぐまれたりしていました。
患者さんは明るく楽観的な性格であり、「旦那ちゃんに会うとかゆいのも気分的に違う」と言われたり、電話で話したりしていました。皮膚の掻痒(そうよう)感が強く軟膏の塗布や眠前にノイロトロピンを施注し対応していましたが、患者さん本人が掻爬(そうは)し出血している所もありました。そこで今後の対応を含め患者さんの精神面と思いを考えるために、ジョンセンの臨床倫理4分割表(「医学的適応」「患者の意向」「QOL」「周囲の状況」についての分析)を作成しました。
現状でどのような援助が必要か、できることは何かを考えました。家族が好きで精神的支えでもあったため面会時は車イスでいっしょに散歩に行くなど、家族と過ごす時間を大切に、面会時間の調整など援助を行いました。シャワー浴を楽しみにされていたのと、掻痒感や皮膚の落屑(らくせつ)を取り除く目的もあり週2回のシャワー浴を行い、清潔を保つようにしました。シャワー浴の際に「お風呂が好きやからこのまま死ねたらいいのに」や「最期は病院やろな」との発言があり患者さんなりに現状を受容していて、本音を言ってくれたのだと思いました。身体的苦痛も取り除けるように対応しながら、患者さんの思いを傾聴し寄り添うようにしました。また、透析を中止することで数日後には苦痛が強くなり、呼吸状態の悪化や意識障害などの症状が予測され、その際はどう対処するか、個室への移動のタイミングなどを話し合いました。同時に家族からは本人の症状緩和の希望がありました。倫理カンファレンスを行うことで必要な援助が明確となり、QOLを保つよう働きかけができたのではないかと思います。倫理的対応についての意見交換も行いました。
入院期間の長さにかかわらず倫理的側面を念頭に患者さん、家族に接していきたい
後日デスカンファレンスを設け、それぞれの思いや感じたことを話し合いました。良かったと思う点は、シャワー浴や清拭など清潔ケアに介入ができたこと、最期は家族との時間を設けることができたなどがありました。一方、気兼ねなく気持ちを表現できるような雰囲気を作れたらよかった、ベッド上での環境をもっと清潔に保てたらよかった、ACPの介入をもう少し早くできたらよかったなど、こうすれば良かったと思う点もあり、それぞれが今後に生かせれば良いと思いました。
今回の事例は入院期間が長期間でした。比較的短期間で退院される患者さんが多いですが、これからも入院期間の長さに関わらず患者さんと家族も含めて、つねに倫理的な視点を念頭に置き、看護を行っていきたいと思います。