コロナ禍をきっかけに、意識も行動も変わった 救命救急センターの「入院前」患者情報の聴き取り

地域救命救急センター

ベテランナースを中心に、どんなに忙しいときも良い雰囲気を保つチームの秘密は

地域救命救急センターは1階の救急室と2階の救命救急病棟で構成され、現在19名のスタッフが所属しています。救命救急病棟では入室基準により依頼されたさまざまな疾患の患者を受け入れています。ときには初療室のベッド2つが埋まっていても次々とストレッチャーが運びこまれることもあり、同時にホットラインが鳴り続ける……ということもあり、そんなとき救急室は戦場のようになります。
その状況のなかでも救急室では着実に確実に業務を進めており、師長を中心としたチームワークで良い雰囲気を保っています。なぜか。そこには経験に裏付けられた知識とスキルがあるからです。救命スタッフの平均年齢は43.3歳。一般的に救命救急センターには新卒ナースが配属されることも多く若手が多いと思われているかもしれません。しかし、当センターでは新卒で配属されることはほとんどなく、一般病棟やICUなどの病棟を経験してから異動してくるベテランスタッフ多いのです。また2人のプラチナナース(定年退職前後の看護職員)がしっかり支援していることもスタッフの自信と安心につながっています。


コロナ禍をきっかけとして「入院前情報」をくわしく聞き取るように

そんな救命救急センターに、ここ数年にわたるコロナ禍で大きな変化がありました。ちょうどコロナ禍のタイミングで病院全体として「患者の退院指導」に力を注ぎ始めていました。ところがコロナ禍による面会制限が始まりました。それまでは救命救急センターでは命を守り病棟にバトンタッチし、病棟で退院に向けて調整を始めるという流れが主流でした。しかし面会制限により入院後の家族の来院機会が減り、病棟では患者情報を得る機会が激減しました。救命救急センターでは「入院時に患者本人やご家族といちばん接触できるのは私たち救命救急スタッフ。スムーズな退院支援につなげる情報収集は私たちができるのではないか」という声が上がりました。
退院するのはほとんどが一般病棟に移ってからなので、それまでは救命救急センターで退院支援に関するヒアリングをするという習慣はありませんでした。しかし、病院全体でも主任会で「入院前情報シート」で情報共有をはじめていたので、すぐに取り組みを始めました。そして部署の目標にも「急性期から退院後の生活につながる支援を行う」を掲げました。
独居の高齢患者の場合、ご家族が県外に住んでおられることも多く、来院されるのが緊急入院から数日後ということもあります。みなさま、患者の命が助かるかどうかの一心でお越しになるので、治療して退院後は家に帰るのか、施設に入るのか、ご家族の近くの病院に転院するのか、といったことまでに考えが至らないことがほとんどです。しかし最初の段階でお話をすることで現実的に受け止めはじめます。家族は漠然と「治療を受ければ入院前と同じ生活に戻ることができるだろう」と思われているケースが多いのですが、実際は必ずしもそうなるとは限りません。なので、なおさら早い時期から退院に向けて家族といっしょに考えることが有効になります。退院に向けての患者・家族の思いや希望の項目から個々のニーズをとらえ、心に寄り添った看護を提供できるよう情報を共有しながら計画を立て実践。また退院支援が必要になりうる患者に対しては早期からメディカルソーシャルワーカーへの介入を依頼するようにしました。
この取り組みに救命スタッフがすぐに対応できたのは先述したとおり、多くのスタッフが他の病棟などを経験しているので「一般病棟に移った後でどんな情報があれば退院指導に役立つか」という視点をもっていたことが大きいと思われます。そしてそこには当院看護部の「身体の状態を見る力、相手を思いやる力、地域での暮らしを支える連携」の3つの力が根底にあるのだと思います。

連携部署に有効なだけでなく「患者さんをより近く感じられるようになった」とスタッフ自身も実感

今回の取り組みをしてからは他の病棟からは「家族とあまり会えないので入院時にくわしく聞いていてくれて助かった」「家族構成や患者家族の意向を聞いていてくれるので退院調整カンファレンスに役立った」などの声をもらいました。
また救命救急センターでは、これまで患者と関わる時間が少ない分、簡素なかかわりになってしまったというケースがたくさんありました。しかし、先の意見を聞いたことにより、患者の背景をくわしく知ることや自分たちが得た具体的な情報を他の病棟やソーシャルワーカーに提供することがその後の退院支援につながる大切な一歩であることを知りました。そしてスタッフ自身もこの活動を通じて「患者さんをより身近に感じられるようにった」との声が多く上がっています。これからもスムーズな退院支援へとつなげられるバトンを渡せるように「第一走者」としての役割を果たしていきます。