西3病棟
コロナ禍での妊産婦は、新型コロナウイルス感染の不安を感じ、産後うつ病のリスクが高かったとの報告がされています。実際にコロナ禍で妊産婦は、例年と比較し産後うつ傾向が有意に高くなっています。
妊娠から出産までの相談や、教育も、コロナ禍での制限があり、不安を持ちながらも、知識を得る機会がない状況が発生していました。
そこで私たち、西3病棟ではオンラインを活用し、リモートでの妊娠・出産・育児に関する指導や個別相談を行っていくことが必要と考えました。
2020年4月からこれまで行ってきた妊産婦支援をオンライン化し、「みとよオンライン妊産婦支援システム」を開始しました。内容は助産師、医師(小児科、歯科)、薬剤師、管理栄養士らによる多職種での出産前準備教室(以下MCとします)・助産師の個別相談・リモート立ち合い分娩・育児相談・コロナ罹患妊婦の相談などです。今回はそのオンラインのMCやリモート立ち合い分娩を利用した事例を紹介します。感染者の多い地域からの里帰りをし、当院で出産をされたAさんです。
「がん治療後の妊娠」「高年初産」「コロナ禍」「分娩・育児に対する不安」
Aさんは妊娠初期から、実家が近い当院での分娩を決められていました。里帰り希望の電話連絡を受けた時に、オンライン出産前教室を紹介し、里帰りに先駆けて、関東方面の自宅より出産準備教室に参加されました。32週で実家に戻られてから自宅待機を経て当院受診されました。面談で傾聴していくと、4つの不安があることがわかりました。それぞれの解決方法など、出産前教室の他のコースの参加に加えて、リモート個別相談、妊娠時期に合わせての指導、お産がはじまったときの夜間や時間外での来院方法や育児物品の準備なども、ひとつひとつ確認しながら、物品だけでなく、こころや身体の準備を一緒に整えていきました。
立ち合い分娩に関しては、はコロナ禍前では、夫とは限らず、上のお子さんや、実家の母親など、多岐にわたり、本人のバースプランに基づいて実施しており、約9割が何らかの立ち合い分娩をされていましたが、コロナ禍以降はご家族の状況にもより半分に減っています。Aさんは、バースプラン時からオンライン立ち合いを希望していました。実際の出産時にはAさん本人から夫に連絡をとることも難しくなることも考え、事前に助産婦が勤務地にいる夫との連絡方法を打ち合わせしました。予定日超過による陣痛誘発で入院したAさんは当院の無料Wi-Fiを利用しながら夫と通話をしました。いよいよ分娩が近づくと助産婦が夫とリモート立ち合い分娩の最終確認をし、夫は出産予測時間には一人になれる場所に移動し、出産のその瞬間までAさんを励まし続けました。誕生のとき夫は感激で涙していました。産後のバースレビューで「リモート立ち合い分娩ができ、私は心強かったですし、夫は貴重な経験ができたと喜んでいました」との言葉があり、ご夫婦ともに満足されていることが確認できました。
リモート立ち合い分娩は「夫婦でお産を共にできた。良かったと感じてもらいたい」という気持ちで臨む
リモート立ち合い分娩はふだんの分娩に加えて撮影業務が加わります。対してスタッフは医師2名と助産師と看護師が3名であることは変わりません。通常の分娩よりもカメラの位置や撮影の環境(余計な音声や撮影範囲が入らないようになど)への配慮も必要です。もし出産が正常ではない場合はご家族に不安を与えないように一時撮影を中断するなどの判断も求められるため、リアルの立ち合い分娩よりもスタッフの負担も大きいのは事実です。しかし、私たちは「リモートでも立ち合い分娩ができて良かった。離れていても、同じ時間を共にして、乗り越えられた」と感じてもらえるために最大の注意を払いながら実施をしています。
入院中、退院後もオンラインを使って本人、実家家族へのリモート支援
Aさんの産後は本人の不安も強く、眠れていない状況があり家族への指導と支援が必要と判断しました。
コロナ収束の目途も立たぬため、退院後も数か月実家に滞在する可能性もありました。そのため実家の母親にも一緒にリモートで沐浴や母乳・育児指導などを受けてもらいました。
また、それだけでなく、退院後も、継続看護が必要と思われたため、当院での産後2週間健診や一ヶ月健診だけでなく、現住所の市役所や里帰り先の、市役所子育て支援課と連携し継続看護を行いました。その後も本人や行政と相談しながら、助産師外来でもフォローを続け、産後3か月に自宅に帰られました。そのころには成長する児への対処ができており、不安を見せることもなくメンタルヘルスも落ち着いていました。東京での相談先や行政への連絡方法もお伝えし、現住所へ妊産婦継続依頼票を再度を提出し、継続を依頼しました。また当院でのオンライン助産師外来も活用してもらうことにしました。
コロナ収束後も、オンラインも活用して多職種連携や行政との協働を進めたい
この事例からも、実際にその場にいなくてもオンラインを用いて表情や言動、手技や指導が実際に見えることで臨場感をもって伝えられることが実感できました。つまりオンラインでの指導は、指導を受ける側にもする側にとっても有効だったのです。また利用者にとっては通院の時間や費用の軽減、病院側では会場の手配が不要であったり、スタッフの連携がしやすいなどからもコロナ収束後もオンラインは活用したいと考えています。こういった柔軟な文化があるところも当院の良さの一つです。コロナ禍でも、芽生えた命が健やかに産み育てられていくように、妊産婦に不安があるなかでも幸せに子育てをしていけるように、私たちはこれからも多職種と連携し、行政と一丸となって支えていきます。