ACPを使った「その患者さんらしい過ごし方」で「もしもの時」に備える

南3病棟

「もしものときの医療と介護のために、前もって考え、みんなで共有しておくことで、自分らしい最後を過ごすこと」、これがアドバンスト・ケア・プラン(ACP)の狙いです。厚生労働省では、ACPの普及・啓発を進めており、地域包括ケア病棟を有する施設には、適切な意思決定支援をすることが診療報酬で決められています。地域包括ケア病棟である私たちの南3病棟はACP推進病棟になっています。先駆けてACPに取り組み、患者さまの意思決定支援の指針をHPで公開するなどして病院全体をリードすることがミッションです。今回はそれまでご家族と「もしもの時」について話し合ったことのない方とのACPの実践について紹介します。


心不全治療後、介護施設へ転院待ちのAさんに本人の気持ちを聞き取る

Aさんは90歳の女性。心不全の治療を終えて特別養護老人施設への転院待ちの状態でした。既往症にぜんそくや虚血性心疾患があり、中程度の認知症があります。次女夫婦と同居からの入院でした。性格はおとなしく、これまで自分の気持ちを訴えることがなかったのですが、今回ご家族(娘さん)に資料(2ページ)の内容でACPを説明し聞き取りの許可を得ました。娘さんは「ACPを初めて知った。実施はかまわないがどこまで母が理解できるだろうか」と心配しました。
聞き取り結果は資料(2ページ)のとおり。質問時にはAさんの表情を見ながら意図が伝わりにくいときは言い換えたりしながら行いました。Aさんはすべての質問項目を自分で考えて答えることができました。「最後は家で過ごしたい、家族といっしょにいたい」と言い「こんなこと考えたことなかった」と言われていましたが、それはこれまでこのような事を話し合う機会がなかっただけかもしれません。今回、ACPを行ったことで本人の想いを引き出すことができたと思います。そして話したことを娘さんに伝えてもいいか本人に了承を得て、娘さんに伝えました。


「話ができたんですね!そんなこと考えていたなんて初めて知りました」と驚く

Aさんの聞き取り結果を聞いて娘さんは「話できたんですね、そんなこと考えていたなんて初めて知りました。最後まで家にいさせてあげたいです」と言われました。そこで「その想いも本人に伝えてあげてくださいねとお願いしました。本人の想いを娘さんに繋げることができたと思います。この聞き取りをした後に予定どおり施設に退院されました。その後、自宅退院されしばらくは外来通院することができました。
ACPを行う前は「死に関することにもなるので聞きづらいな」と少し思うこともありましたが、実際に患者さんの気持ちを聞き出すことで「実現させてあげたいな」と思うようになりました。聞き取りをしていないと「もしもの時」に本人や家族の気持ちに寄り添うそことができないのでACPは重要なことだと感じました。聞き取りを行うときは、ただ質問項目だけを聞くのではなく、患者さんのこれまでの人生(仕事や趣味なども含めて)を奥深く聞いていくことがたいせつです。


ACPでは多職種が連携しながら患者さんの思いに寄り添っていく

ACPではガイドラインで記載されているように、多職種連携が重要です。多職種の思いを聞いてみました。
医師:ACPをすることで、患者に人生の最後まで有意義に過ごしていただきたい。
薬剤師:ACPを参考にすることで、ニーズに合った薬剤を選択し、使用方法を提案できる。
PT・OT・ST:リハビリ的な目標だけでなく、より深く患者の想いを聞き、患者の希望に沿うリハビリをする。
MSW:患者の想いをより深く聞いていると、どこでどのように生活するのか退院支援の際に参考になる。
みんなACPを活用し、患者の想いに沿った支援が出来るように取り組んでいます。看護師の役割は、その人の想いを繋ぐために、多職種間での橋渡しになることと考えます。南3病棟の目指す姿は「その人らしく生きるための退院支援」 。そのためにカンファレンスでどのような聞き取りのしかたをすればよいか、話の進めかたや聞き取りのしやすい環境はどんなものか、などについて情報を共有してスキルを高めています。
この事例は一例であって、昨年度病棟全体で、51件の聞き取りを行いました。退院支援と言っても、ただ帰すのではなく、どのような状態で、どこで過ごしたいのかという想いやニーズを大切に、その人らしく生きるための退院支援を目指していきたいと考えています。