心不全患者とその家族へ、ACPを取り入れた関わり

三豊総合病院 循環器病センター

循環器病センターでは、2020年度より心不全患者を対象にACPを導入しています。今回は、その中の一例を紹介します。

急激な悪化と改善を繰り返し、突然死亡する心不全者だからこそ導入したACP

 まず初めに、ACPについて簡単に説明します。ACPとは、advance care planningの略で、将来の変化に備え、医療及びケアについて患者さんを主体に家族・医療従事者が繰り返し話し合いを行い、患者自身の意思決定を支援するプロセスを言います。終末期に至った際に、納得した人生を送ってもらうことを目標としています。なぜ心不全患者のACPが必要なのかということですが、心不全の経過は癌とは異なり(添付資料1)、
①初期から急激な悪化と改善を繰り返す
②突然に死亡する
ということがその理由です。心不全はあくまで病態であり、その原因によっても経過は様々であり、心不全は予後の予測が非常に困難です。そこで、以下のような目的で、心不全患者へACPの導入を試みることにしました。
①慢性的な経過を辿り、最後は看取りとなる心不全患者へ、家族・医療スタッフが繰り返し話し合う場を持ち、患者自身がどのように生きていきたいか意思決定していくことで自身の将来に向き合ってもらう。
②自身の将来に向き合うことで退院後のQOLを向上させることができる。
③また、ACPを通して望まれない治療を減少させることができる。
ただし、対象とする患者は、認知機能が低下していない心不全患者、心機能低下が顕著にみられ、明らかに予後が短いと医師が判断した患者、心不全外来に通院可能である患者とし、認知症、あるいは性格的にACPが導入困難と判断された患者については適応外としました。

意思決定が行える時期からの介入、最期の過ごし方の希望も含めて考えることが重要な視点

 次に、ACPの流れについてですが、事前に医師より患者・家族に簡単に話をし、同意が得られた患者・家族に実施します。そして患者と家族に事前シートの記入をしてもらいます。事前シートは、「アドバンス・ケア・プランニングに関しての事前シート」という名称で、患者・家族に対しての共通内容のシート、患者様用のシート、家族用のシートの3種類を用意しました(添付資料2)。これは医師と相談しながら、作成したもので、定期的に変更点などを話し合い、修正するようにしています。患者・家族が事前シート記入後、医師がACPと心不全について十分な情報提供、説明を行います。事前シートをもとに、患者・家族とMSWや医療従事者を交え現状や患者・家族の希望・困っていることなどについて話し合い、方針を決定して行きます。ACPのチーム編成は医師・看護師・MSW・病棟薬剤師で行っています。そして、人生の最終段階における医療とケアの方針を決定していきます。このプロセスの中で、意思決定が行える、病状がある程度安定した時期からの介入が必要であること、治療選択(蘇生処置)だけのことではなく、最期をどのように過ごしたいかも含めて行うことが重要と考えています(添付資料3)。

患者・家族が最終段階まで納得し、双方が望ましい生活が送れる支援していく必要性を痛感

 A氏は92歳の女性です。 SSS(ペースメーカ植え込み済)がベースにあり心不全で入院した方です。介護認定を受けており、週1回ディサービス利用しています。A氏は、昨年長男が死去し、現在はその嫁と敷地内同居していますが、交流はなく独居の状態です。その為、長女が毎日20分程度かけて通い生活全般の面倒を看ています。今回の入院中、A氏と長女に事前シートを記入してもらい、ACPを実施しました。事前シートの一部を抜粋したものを紹介します(添付資料4)。人生会議については両者共が「知らない」と答えています。数年前よりACPに関して見聞する機会も増えていますが、一般的にはまだまだ浸透していないということが分かります。このご家族の場合も最終段階について考えてはいましたが、A氏との話し合いはされていませんでした。また「今までの人生の中で大切にしていることはありますか」の質問に患者・家族共に「ない」と回答していましたが、話を進める過程で長女から五円玉でお城などを作るのが好きだった、最近はデイケアで塗り絵を頑張っているなどの情報が得られました。元々仕事は農業をしており、手先を使うことが好きだということがわかり、今後のQOLに影響する情報が得られたと感じました。さらに生活についてA氏は、「自分のことは自分でできたら良い」と回答し、長女も「ADL自立」を希望していました。これは両者の生活状況を考えての回答であると推察されます。長女にも家庭があり、夫も協力はしてくれるとのことですが、他に頼ることができる人はいないとのことでした。高齢の長女に何かあれば患者自身も生活できなくなります。ACPは患者だけでなく、患者を支える家族も対象です。ACPを繰り返す過程で、患者・家族がお互い我慢するのではなく、最終段階が訪れるまでお互い納得し望ましい生活が送れるように支援していく必要性を感じました。また、患者とその家族の心情は変わることもあるため、入院中あるいは退院後も定期的(心不全外来でも)にACPを継続していくことが必要だと考えます。ACPを導入することで、家族と話し合うきっかけを作り、患者の思いを共有し、人生の最期までその人らしく生きていけるように援助していく事が大切であると今回の症例から学ぶことができました。

 現在ACP症例数は6件で、ACPを導入した患者で緩和ケアまで至った症例はない為、緩和ケア導入・移行については今後の課題です。循環器病センターでは、今後もACPを通して、患者の心に寄り添える看護を提供して行きたいと思います。