心不全末期、超高齢者で独居だったAさんの在宅看取りについて

訪問看護ステーションでは、当院看護部副主任会が作成したアセスメントの視点を活用し、状態に応じた根拠に基づくケアの提供を行うことを目標とし、取り組んでいます。今回は、心不全末期、超高齢者で独居だったAさんの在宅看取りについて紹介します。

最期まで自宅で過ごすための支援を行う方針で始まったAさんの訪問看護

Aさんは超高齢でありながら、介護サービスや別居の家族の支援で独居生活を送っていました。心不全の終末期状態でADLが低下し、通院が困難となりましたが、認知症のため入院治療は困難だと考えていた主治医から、訪問看護の依頼がありました。家族は、それらを理解した上で、Aさんの「家でいたい」という気持ちを尊重したいと考えていました。Aさんは歩行困難でしたが、ポータブルトイレへの移乗は一人で行っていました。低栄養や基礎疾患に加え、端坐位になることが多く下肢に浮腫と、臀部に褥瘡がありました。訪問開始時の担当者会議において本人、家族の希望と、主治医の意見を総合し、以下の方針のもと訪問看護をスタートしました。

①積極的な治療を行うよりも、最期までできるだけ自宅で過ごすための支援を行う
②介護が困難となるほどの苦痛増強時は入院も検討する

訪問看護で観察した内容や家族とヘルパーから得られた情報を、週1回主治医へ報告し、報告日とは異なる日に家族が受診し主治医と面談するようにしました。

心不全が進行し、介護者不在という療養生活上の困難軽減のために平日の毎日訪問を実施

訪問開始時、バイタルサインは落ち着いており、食事や水分量も少しずつ増えてきて褥瘡は治癒しましたが、低栄養もあり浮腫は増強傾向でした。下肢循環不全や皮膚損傷などの予測をしながらも、認知症で状況理解ができず、独居でもあり、療養上の教育的支援項目を守ることは困難でした。症状の悪化を感じつつ、変化を注意深く観察していきました。訪問開始から12病日目、家族が主治医へ「足が腫れて赤くなっている」と伝えたことから、主治医から看護師に連絡が入り、臨時訪問することになりました。浮腫のある下腿に小さな傷が発生したことが原因と判断しました。主治医には状況を写真に撮り、原因と考えられる背景として、心不全の進行に加え介護者不在という療養生活上の問題が解決困難であることも大きな要因ではないかと報告し、訪問看護を続けていきました。その後も転倒や打撲をしては新たな傷を作り、多量に浸出液を認めるようになったので、主治医と家族の承諾を得て、平日は毎日訪問することにしました。また介護ヘルパーには、創部にあてているパットの交換方法を説明し、できるかぎり処置の継続を行いました。それでも浮腫は改善することなく、ADLも低下の一途をたどっていきました。これらのことから急変の可能性も考え、最期をどこでどう迎えるのかを最終確認する必要があるのではないかという判断に至り主治医へ相談しました。そのうえで主治医から家族に臨終が近いことを説明しましたが、家族の気持ちは変わりなく在宅継続という結論でした。亡くなる5日ほど前からは、食事や排泄量が低下し、痛みや倦怠感の訴えが増えいよいよ最期の時が近づいていると思われました。この時点でも家族の気持ちに変わりはなかったため、現状と終末期に予測される経過を説明していきました。そして訪問開始から46病日目、家族が見守る中、自宅で永眠されました。家族は涙を浮かべながらも、自宅で看取ることができたことにほっとした表情をみせ、「ありがとうございました」と感謝の言葉を伝えてくださいました。

訪問看護は看護師の判断力が重要であり、看護の質で信頼を得るにはアセスメントの視点が軸

在宅看護は病院とは違い、医師の診察がすぐに行えない場合が多いので、看護師の判断力が重要となります。状態を的確に把握し今後の予測を含めたアセスメントが求められ、緊急性を判断して医師へ報告を行うことが重要です。そのためには、アセスメントの視点が軸になると考えています。添付資料にあるように、アセスメントシートを活用して、利用者さんやご家族から得た情報をアセスメントし看護を提供しています。そして、質の高い看護を提供することは、利用者さんやご家族はもちろん、主治医との信頼関係にも影響されます。各ステージにおけるアセスメントを可視化することで、スタッフ全員で利用者さんの情報を共有するだけでなく、お互いに訪問看護を学び合い、看護の質を高めるステーションを目指しています。