腹膜透析患者と家族への退院支援の関わり ~自宅療養困難と思われていた患者・家族への多職種連携で行った退院支援事例~

中4階病棟

 中4病棟は、2019年度に、2つの病棟が合併した消化器・腎臓・代謝科の混合内科病棟です。入院の6~7割が緊急入院で、内視鏡治療や処置を行います。その様な患者のケアを行いながら、糖尿病教育入院や透析導入入院患者に対しては、退院後の生活を踏まえた患者指導を行っています。今回紹介するのは、PDラストとして自宅退院を強く希望された患者と家族にチームで介入した事例です。PDラストとは、透析医療の終末期の一つとして身体的負担の少ない腹膜透析を選択することです。この患者は血液透析も完全な腹膜透析もできない状態でしたが、状態が悪化する中で、患者と家族が選択したのが、このPDラストでした。

患者からシャント穿刺を拒否、「PDラスト」としての腹膜透析療法について患者と妻に説明

 患者のAさんは、77歳の男性で、妻と次女の家族5人で暮らしていました。 要介護2で、デイサービスのみを利用していました。既往歴は、心不全、慢性腎不全、糖尿病、脳梗塞、ASO(閉塞性動脈硬化症)等があり、心不全による入退院を繰り返していました。しかし、利尿剤での体液コントロールが限界の状態でした。2018年2月に内シャント造設し、2019年4月に溢水にてECUM(体外式限外濾過療法)を実施しました。しかし、毎回血圧が低下し、十分な除水ができませんでした。また、本人も痛みからシャント穿刺を拒否しました。これ以上血液透析を行うことは困難だったので、透析療養指導看護師が「PDラスト」としての腹膜透析療法について患者と妻に説明しました。妻は協力的で、次女も手伝ってくれるということになりました。PD導入を選択され、2019年5月PDカテーテル挿入術を施行し、同月にPD導入となりました。自宅療養をする上で妻がキーパーソンです。というのも、次女は同居で、協力するという気持ちはありましたが、実際は手技を習得されませんでした。また、近くに住む三男はIC(インフォームド・コンセント)には来られましたが、仕事が多忙な様子で介護協力はされませんでした。患者が退院するには、妻がPDを覚えることが必要不可欠でした。

手技を覚える大切さを何度も何度も説明し、多職種と連携・訪問看護を取り入れ退院

 しかし、妻は手技がなかなか覚えられませんでした。また、妻自身の体調が悪くなったり、付き合いが忙しいといった事情もあり、練習に来て頂くのが難しいという状況が続きました。そうは言うものの、このままでは感染のリスクが高い上に、退院することは困難になります。そこで、二つのことを実施しました。一つ目は、一般的には1日4回のバック交換をしますが、PDラストとしての導入なので、妻の負担とならないよう1日2回に減らす提案をしました。「やります」と言いながらも、実際はなかなかPDが実施できない妻に対して、退院するにはおむつ交換やPDの手技を完全に覚えていただくという二つ目の課題に対しては、次女と三男に実際はできていない現状をみてもらい、医師とともに妻にICをして、手技を覚えることの大切さを何度も何度も説明しました。かなりの回数の見守りを実施しました。そして、多職種との連携を取り、訪問看護を新たに取り入れ、病棟においても入退院前確認シートを活用してカンファレンスを繰り返し、いったんは退院し、自宅へ帰ることができました。自宅でたくさんのお孫さんと過ごすことができたようです。

退院支援が困難な患者でも、全員で考え、予測し、自宅に帰るという願いを援助したい

 その後、Aさんは、PDカテーテルの管理を継続することができず、感染のため再入院することとなり、病院で最期を迎えることとなりました。少しでも住み慣れた自宅で家族と過ごす時間が持てたことはよかったのかもしれません。しかし、なかなかPDの手技を覚えられない妻にとっては、それが身体的・精神的負担となった上に、最後はPDでの除水も困難となったため、本当にPDラストとして導入してもよかったのかを考えさせられる事例でした。透析療法を選択する際は、最初の関わりがとても大切だと痛感しました。私たちは、血液透析か、腹膜透析か、腎移植か等の療法選択を説明する時に、図のような冊子を使っています。ACP(アドバンス・ケア・プランニング)として、患者を理解するためのシートを用いています。生活環境や習慣、好み、思いを医療者で共有し、病気や治療法に関しても十分理解したうえで、納得した最善の療法を選んでいただく「シェアード・ディシジョン・メイキング」が実践できるように透析導入前の患者には関わりたいと考えています。A氏との関わりを通して、保存期とよばれる透析導入前の患者の関わりや、導入してから退院支援が困難と思われる患者でも、病棟スタッフみんなで考え、予測し、自宅に帰るという願いをあきらめることなく援助することは大切だと思いました。

 私たちの病棟は、看護をする上で「患者・家族の思いを聴く、安全に、確実に、スムーズに」ということを大切にしています。また、急性期の患 者さんも、終末期に向かう患者さんもいますので、それぞれに適した看護を常に意識して、実践を心掛けています。実際には、緊急入院も多く、常に忙しくしていますが、看護は一人で抱えてしまうと難しいこともたくさんあります。だから、すべてのスタッフがそれぞれに自由に意見が言えて、情報をしっかり共有して、全体を見て看護ができるような職場を目指しています。幸いにも、若いスタッフの背中をベテランが押し、支えてくれるので、若いスタッフからも良い意見が聞ける職場風土です。腎臓、膵臓など様々な内科疾患を看護する病棟としては多忙で、豊富な知識を必要としますが、少ない時間でも患者にとって大事な時期の関わりのチャンスは逃さないようにしたいと思います。