看る力が患者を救う~緑内障発作症例から学んだこと~

眼科外来

 外来を訪れる人達は、それぞれに様々な症状や心配事を抱えて受診されます。外来看護師は患者の表情、症状、訴え、データをアセスメントし、トリアージを行い、対応を行います。特に、「看る力」を意識して、患者の表情や言動からその意味するところの理解・判断に努めています。また、情報収集や対応に関しても経験豊富な看護師が多いので、一人だけで判断するのではなく、他の看護師の情報や視点も考慮し、連携して看護することを心掛けています。今回は、私たちの経験と知識を最大限に活用して、当院の理念での一つである「看る力」を発揮した症例を紹介します。

頭の中で素早くアセスメントし、様々な可能性を検討し、脳血管疾患の疑いを判断

 Aさんは、家族に車椅子を押してもらい、頭を抱えながら内科を受診しました。主訴は頭痛、嘔気で、目を閉じ眉間に皺を寄せ、苦しそうな表情であったため、内科看護師はベッドに案内しました。車椅子からベッドへの移乗は自力で出来ましたがずっと頭を押さえていました。看護師の声掛けには頷きましたが、発語はありませんでした。既往歴は、狭心症・弁膜症・めまい症・脳梗塞、アレルギーはなく、受診時バイタルサインはKT=36.9℃、BP=181/85mmHg、P=61、SpO2=100%(ルームエアー)でした。前日23時頃から嘔気、下痢、右眼の違和感あり、夜中に嘔吐しましたが、症状が改善したため就寝されました。起床時(午前7時頃)から激しい頭痛、繰り返し嘔吐したため受診という経過でした。症状・徴候から情報収集し、頭の中で素早くアセスメントし、様々な可能性を整理・検討した結果、頭痛・嘔気の症状が強く、血圧も高く瞳孔不同あり脳血管疾患の疑いがあると判断し、早めの診察が必要とトリアージを行い、医師へ報告しました。診察の結果、CT、MRIがオーダーされたため、放射線科へ至急である旨を伝え、ストレッチャーで検査に行きました。

本人より新たな情報を得て、緑内障発作の可能性とアセスメントし、早期に眼科受診

 検査後、本人が会話できるまで症状が改善したため、再度確認したところ、昨日22時頃から、視界がすり硝子の様になっていたこと、起床後より右眼に痛みが出現していたという情報を得ました。画像上では明らかな所見はありませんでしたが、頭痛・嘔気が続き、瞳孔不同もあるので、脳外科にコンサルテーションした結果、中枢性の問題はないだろうとの診断を得ました。しかし、本人からの右眼の疼痛の訴えと瞳孔不同・充血・混濁といった症状があったので、眼科にコンサルテーションを行いました。眼科看護師は症状から、緑内障発作の可能性があるとアセスメントし、早急な対応が必要であるとトリアージを行い、眼圧測定を視能訓練士へ依頼しました。検査の結果、高眼圧であったためすぐに医師に報告し、診察しました。診察の結果、急性緑内障発作と診断され、点眼・点滴により眼圧の下降処置が行われました。しかし、縮瞳・眼圧の低下がみられなかったため、緊急水晶体再建術を施行することとなり、緊急入院加療となりました。

求められる治療やケアの実現、看護師や医師・他職種と連携して患者を看る体制づくり

 急性緑内障発作は、失明してしまうこともある疾患で、緊急の処置が必要です。今回の症例では早期に眼科受診に繋げることができましたが、頭痛・嘔気を伴うため、脳外科や内科を受診し眼科受診するまで時間がかかったり、夕方から夜間に発作が起こることが多いため、朝方まで我慢したりと対応が遅れることがあります。このような課題を解決するために、早期に対応し、失明のリスクを軽減できるように、眼科外来の看護師として外来・病棟へ働きかけました。まず、外来においては、この症例を小グループに分かれてディスカッションし緑内障発作に対する情報を共有しました。病棟に対しては、眼科医の協力を得て、パンフレットを作成し、入院中の患者が夜間でも看護師から直接眼科医へ相談ができる体制を整えました。その結果、外来や病棟から緑内障発作を疑う症例の相談が増えました。眼科医は「来ないのが一番良いのだけれど、こうやって意識してもらえるのが嬉しい」と朗らかに対応してくれました。看護師だけでなく、各科の医師や放射線技師、視能訓練士等他職種と連携を取って患者を看ることが、求められている治療やケアにつながることを実感しました。

 外来では、医師との距離が近いことや他の専門職と相談しやすく、信頼関係のある環境にあるので、看護師が患者さんにとって何が大切なのかを根拠に基づいた説明をすることでより適切な医療を提供できると思います。私たち看護師は、アセスメントを繰り返し行なうこと、関係する様々な職種と協働すること、個々の看る力を強めることで、患者のQOLが維持できるような支援を常に目指しています。視野を広く持ち、視野欠損せず、患者の全体像を把握して、「看る力」を最大限に発揮した看護を実践していきたいです。