患者の意思決定を尊重した認知症世帯の退院支援 ~本人と家族の連携を支援して~

南3階病棟

地域包括ケア病棟では、患者に寄り添った退院支援に取り組んできましたが、高齢者の認知症世帯が増えており、退院支援が困難になっています。これまでは、認知症患者の意思よりも、どちらかというと家族の希望を優先していました。今回の事例は、患者の意向を尊重し、問題点を抽出し、どうすれば解決できるのか、また、解決できない時は他にどのような解決策が考えられるのかといったことをスタッフや患者・家族でカンファレンスを行い、共通認識したものです。

認知症の悪化、多岐に渡る内服、ADLの低下という問題を抱えたBさんとの関わり方

【身体(からだ・こころ)の状態を看る力】
◆患者理解とニーズの把握
Bさんは97歳の男性です。過去に認知症、腎不全、心不全があり、腰椎圧迫骨折後に食欲低下やADLの低下が見られ入院されました。認知症の奥様と二人で暮らしており、ご自身は要介護2で、週3回デイサービスを利用し、また、ヘルパーが毎日訪問していました。15分ほど離れたところに次女が住んでいるので、サポートもありました。Bさんは「早く家に帰りたい、やっぱり家がええ」と言い、娘たちも「できるだけ自宅で見てあげたい」という希望があり、自宅退院を目指して、地域包括ケア病棟に転入してきました。そこで、私たちは、入退院前確認シートを活用し、問題点の整理をしました。一つ目は、認知症の悪化です。超高齢に加えて、認知症自立度4程度の認知症でした。二つ目は内服が多岐に渡り、自己管理が困難なことです。服用時間が食前・食間・食後・眠前と計8回の服用が必要であるので、次女が毎日夕方に来て、内服の準備と管理をしていましたが、現実には確実に服用することが困難でした。三つ目はADLの低下があることです。

◆診療の補助と療養上の世話
これらの問題についてカンファレンスで何度も話し合いました。どのようにすれば確実に服用することができるのかという点について、主治医との相談の結果、朝夕1日2回の服用とし、その他については可能な限り一包化に変更となりました。排泄面では、ポータブルトイレの移乗は可能でしたが、ズボンの上げ下ろしは介助が必要でした。移乗するときはナースコールで知らせて頂くように説明していましたが、知らせずに移乗しようという行動が見受けられたので、緩衝用マットとセンサーマットを使って、移乗の見守りと介助を続けました。同時にADL拡大を目的に、センターリハビリに加えて、棟内の廊下を朝夕1日2回程度、歩行器歩行する練習をしました。安定して歩行できる距離が増えて、退院時には手引きでトイレを使用することができました。

他の患者と一緒に過ごすことに抵抗ある本人の意向を尊重し、無理強いしない関わりを継続

【相手を思いやる心】
◆相談と指導
転入時は、1日のほとんどをベッドの上で閉眼して過ごしていましたが、まずは離床からと思い、ナースステーションにて車いすで過ごすことやレクリエーションの参加を勧めました。しかし、ずっと拒否をされるので、家族に確認すると、元々学校の先生で校長先生をされていたことがわかり、他の患者さんと一緒に過ごすことには抵抗があることがわかりました。社会的背景を考慮して、本人の意向を尊重し、無理強いしないことをスタッフで共有し、関わりを続けました。病室もナースステーションに近い部屋に移動し、自室で過ごせるように配慮しました。東京から長女が2週間ほど帰省された時に協力を得て、花壇の前や院内を散歩するなど家族で過ごす時間をしっかり取ってもらうことができました。

認知面の悪化予防やと退院後の生活を現実に捉えるために毎週末の外泊を提案

【地域での暮らしを支える連携】
◆調整
認知面の悪化予防や患者・家族が退院後の生活を現実に捉えるために毎週末の外泊を提案し、家族の了承のもと、何度も試験外泊を経験することができました。外泊中は、次女も一緒に過ごし、食事や内服管理を行いました。一日の生活の様子を次女が自ら記録してくれたので、Bさんの生活パターンを把握することができました。外泊中は、よく眠れたようで、「やっぱり家がいい」と言われ、自宅が安心で、くつろげる環境であることがわかりました。多職種を交えた退院前カンファレンスでは、毎日のヘルパー訪問、週2回のデイサービス、週2回の訪問看護の利用をすることになりました。また、次女には毎日夕方の訪問時の配薬をしてもらうこと、毎朝訪問しているヘルパーには飲み忘れがないように声掛けを行ってもらうことを依頼しました。退院後2か月経て、再入院することなく自宅で生活をされています。

この事例では、患者の「家に帰りたい」という意思を尊重することができ、また、家族の協力が得られ、本人が納得のいく退院を実現することができたのではないかと思います。今後も、スタッフ一同で患者の意思決定を尊重し、安心できる退院を目指し退院支援に取り組んでいきたいと思います。