患者主体とした退院支援~独居で自宅退院希望が強いAさんの退院への道筋を共有した看護~

西8階病棟

私たちの病棟は整形外科病棟で、患者さんの多くは手術を受ける患者さんです。慢性疾患を除くと、転倒や事故などの外傷で急な入院を強いられる方がほとんどで、高齢者の骨折が大多数を占めています。中でも、独居の患者さんは退院後の生活の不安や退院場所の自己決定が難しくなっています。今回は、独居で自宅退院希望が強い患者さんに対して、患者さんやご家族の想いに寄り添いながら、自宅退院までの道筋を立てて、関わった事例を紹介します。

術後2週目で車いす移乗一部介助移行の段階で、日増しに帰宅願望を強めるAさん

【身体(からだ・こころ)の状態を看る力】
◆患者理解とニーズの把握
Aさんは、80歳代の独居の女性です。早朝の散歩中に転倒後、大腿部痛があるため、救急要請されました。左大腿骨頸部骨折と診断され、左BHP目的で入院することになりました。要介護1で、週2回の訪問介護を利用しており、既往歴としては、高血圧、うつ病、シェーグレン症候群がありました。集団行動が苦手で、退院後は自宅での生活を強く望んでいました。ご家族である娘さんは千葉県在住ですが、手術日より2週間程度帰省されたので、今後のことについて相談されました。娘さんは回復期病院でリハビリをした後、自宅へ帰ることを希望されていました。

◆診療の補助と療養上の世話
手術後は、毎日鎮痛剤内服をして、疼痛コントロールをしました。リハビリには取り組みますが、リハビリ以外での離床意欲はあまり見られませんでした。また、認知機能低下予防を目的に、車いすで移乗し、折り紙や塗り絵などに積極的に参加するようになりました。日々の会話の中では、「これだけ動けたら、私、家に帰れるな」と日増しに帰宅願望を強めていきました。術後2週目で車いす移乗全介助から一部介助移行の段階でしたが、車いすに乗れることで自宅の生活ができると思いこまれている状態でした。現実的に自宅で生活するためには、まだまだ自立できている状態ではありません。これまで、私たちは、患者本人が望む地域に帰るまでのADLに関わり見届けることができないケースが多かったように思います。しかし、地域に帰るための今後を見据え、その人の求める生活に必要なADLの向上や身体面・精神面・社会面を考慮し、転院・退院まで関わることが大切と考えて、Aさんと一緒に自宅退院までの道筋を考えることにしました。

入院前を振り返り、現状の課題を認識し、継続してリハビリに取り組み、転院の必要性を理解

【相手を思いやる心】
◆相談と指導
現状を認識してもらうために、入院前に自分でできていたことを思い出してもらい、現在の状態と結びつけて問題点と解決方法について一緒に考えていくことにしました。Aさんによると、内服薬・点眼は自分ででき、トイレも歩いて行っていたことや、更衣整容は自立であったが、入浴は困難なため訪問介護を頼んでいたという情報を得ました。現在のADLと比べると、移動動作と排泄動作が大きな課題として浮き彫りになり、特に排泄行動の自立は必要条件であることを認識されました。オムツ使用中のA氏のオムツを自宅で誰が変えるのかという課題に対して、「今のままでは自分ではできんな。娘も遠いところにいるし。せめて、トイレは自分で行けるようにならないといけないな。もう少し、リハビリをしないといけない」という認識をするようになりました。自宅で生活がしたいという目標とリハビリが結びつき、リハビリに対する意欲が向上し、リハビリ以外での離床時間が増えるようになりました。最終的には、リハビリをもう少し継続すること、そのために回復期病院への転院の必要性を理解されました。

入院時には今後について共有しにくい中でも、転院後の生活を具体的に提案することが大事

【地域での暮らしを支える連携】
◆調整
入院時は受傷後の痛みや精神的苦痛のために今後の方向性について関わりにくいという現状があります。このケースでも同じことが言えました。入院したばかりなのにもう退院のことを考えなければならないのかということを訴える患者さんはたくさんいます。転院が必要な場合の患者さんに転院するメリットを含めて具体的な選択肢を提示し、MSWにも介入してもらい、転院後の生活について具体的な提案を行っています。

今回のAさんのケースを通じて、最終的には自宅に帰りたいという希望があり、そのためにはどこまでADLの回復が必要なのかを明らかにし、それに対する問題点を認識してもらい、看護師がその問題解決に向けてチーム全体で取り組むことの重要性を改めて認識しました。私たちは、単に急性期だけの関わりを仕事と捉えずに、患者さんの望む生活や想いを優先し、その希望を目標に据えて、問題点の抽出、解決策の提案をすることを大切にして仕事をしていきたいと思います。特に、転院の必要な患者さんには、望む生活への橋渡しの役割をしっかり担いたいと思います。