泥酔状態で自転車に乗り、溝に落ちた患者さんが救急外来に来院した。来院時は泥酔状態で症状もはっきりせず、両手足は動いていた。診察医の指示でCTをとり、異常がなかったので帰宅することになった。ストレッチャーから直接車に乗せようと座位になったところ急に痙攣様の震えが起き、おかしいということで経過観察のため一泊様子を見ることになった。その後、夜中に状態が悪くなりMRIをとり、脊髄損傷である事が判明した。その時、自分は妊娠中で産前休暇前の最後の当直だった。夜中に泥酔状態の患者への対応は気分が悪いし、自分の体がしんどくて早く仕事をかたずけたいという思いがあり、注意深い観察を怠ったのではないかと思う。自分は整形外科外来勤務中でありながら泥酔状態という訴えが不明瞭な場面に対し、脊髄損傷の可能性を頭に入れることができず、患者の状態より自分の体を中心に考えてしまった。本来なら転落の場面から精髄損傷の可能性を頭に入れるべきだった。患者に帰ってもらうことになった時、心のどこかで「大丈夫かな…?」という思いがあったが、その思いより自分の体がしんどかったので医師にも言えず、「医師が帰ってもらうというのならいいか…」と自分の心のつぶやきを消してしまった。
それ以降は、「何かしら・・・、これ大丈夫かな…、見に行ったほうがいいかな…、準備しといたほうがいいかな…、心配やな…」という心のつぶやきが出てきたときは、その心のつぶやきに従うようになった。集中して何かに取り組んでいるような時でも、ポッと頭に浮かんだ気になる事に対して素直に従い行動すること、経験からくるカンのようなものを大事にしたい 。
ライブの会からのメッセージ
看護師は長く経験を積むと、検査データや症状に異常が見られなくても、患者さんを看たときになんだか変だな?と感じたり、大丈夫かな?と心配になることがあります。そんな時、その患者さんが後に急変するなど重大な事象が起った経験をした看護師は多いと思います。この顕著に現れていないものを感じるカンのようなものは、ベテラン看護師特有なものです。これも看護師の暗黙知の一つといっていいでしょう。このようなカンがはたらくと、さらに看護師は詳しく観察しようとアンテナを張り巡らせます。
この場面の看護師は、その危険性を感じていたのですが、行動に表す事ができず後悔し、これから大切にしたいものを見つけました。暗黙知の大切さを強く感じた貴重な経験だったと思います。また、このことを話す勇気を持ってくれた事で、次の世代に暗黙知の大切さを伝える事が出来たと思います。