救命のために行うべきこと第一に考え、その上で患者・家族の思いを聞き対応していくことが私たちの看護

地域救命救急センター

 平成29年度の救命センターの目標は、「患者のこころとからだを理解し必要な看護を安全に行ないます」でした。当センターでの入室期間は2~3日と短かく、看護計画の目標が「一般病棟に退室する」ことになっている症例が多くありました。しかし、「患者が苦痛に感じていることは何なのか」「患者・家族は治療以外に何を望んでいるのだろうか」患者・家族の思いをもっと理解したうえで看護することが大切であると考え、私たちは、患者参画型の看護計画の充実、患者の苦痛や反応の理解と記録の充実を目標に取り組みました。一人の患者に関わる看護師はほんの数人ですが、受け持ち看護師だけの関わりにならない様に、カンファレンスの場で看護計画を用いて患者や家族の思いを共有しました。
 このような活動の結果、一人一人の看護師が患者家族の思いを大切に行動できるようになりました。そして自分たちの行った行動を振り返り、他のスタッフへ伝えることができたと思える一つの症例がありました。

死亡確認時に自己脈再開した患者さんの延命か、看取りか・・・看護師として選択した提案

 私たちの職場では、「救命のために行うべきことを第一に考え、その上で患者・家族の聞き対応していくこと」を大切にして、日々の看護を実践しています。これは、私たちが日々大切にしている事を実践し、また実践の中から大いなる学びをした話です。この患者さんは、95歳の男性で、中度以上の認知症があり、要介護3ですが、食事は介助で摂取できる方でした。かかりつけのクリニックから、心不全・粘液水腫で3日前に私たちの病院を紹介され受診していました。その時の担当医からは、老衰と診断されていました。それから3日後、食事後に心肺停止となり、CPRをしながら救急搬送されてきました。ご家族は覚悟を決められている様でした。病院到着後もCPRを継続しましたが回復せず、救急担当医がご家族同席のもと死亡確認をしようとしたところ、自己心拍が再開しました。しかし、患者さんに残っているのはわずかな時間です。救急担当医は、原因検索のためにCTを指示しました。不安定な患者さんの状態から、残りわずかの時間、「このままCTに行ったら病棟に行くのは無理かもしれない」とその場にいた看護師みんなが思いました。そして、「患者さんの最期の時間を少しでも家族と一緒に過ごせるようにしてあげたい」という看護師の思いを一人の看護師が言葉にして医師に伝えてくれました。その時には、外来で担当した医師も救急担当医も「そうだね」と私たちの思いを受け入れてくれました。

患者さんと接する時間が短いからこそ「その人らしさ」を実現するための観察・判断・説明が大事

 私たちは患者さんの状態を見て病棟への移送の準備を始めました。病棟の看護師に自分たちも病棟に上がるので、患者さんをすぐに受け入れてほしいという旨を連絡しました。それは午前10時頃で、病棟は最も忙しい時間帯でしたが、受け入れ側の看護師が素早く対応してくれました。センターから医師、看護師2名がついていき、病棟の看護師と協力しながら環境を整えました。呼吸器をつけたまま、ストレッチャーに乗せたままにし、そこにご家族が続々と集まって来られました。その時の様子を、私たち救命の看護師は日常的には滅多に見ることはできませんが、私たちの仕事が病棟でどのように引き継がれているのかを知るいい機会でした。午前9時10分頃に救急搬送され、午前10時には病棟に上がり、その後10時50分に亡くなられるまでのわずか1時間程度の関わりですが、短い時間の中でも患者・家族の思いを聞き対応することの大切さを十分に実感できるいい経験でした。ご家族の心境を思い、病棟での看取りを提案しました。それは、この患者さんは家族にとても大事にされている患者さんだと私たちは感じさせられたからでした。救急車が到着したとき、救急車にご家族が一緒に乗っているだけでなく、到着時にはすでに4名のご家族が一緒でした。その後、病棟に上がってからも、このわずかな時間の中で続々とご家族が来られました。みなさん、患者さんを囲みながら思い出話をされていました。お孫さんの奥様が、食事の介助をしているといった話題や家族で介護をしている様子も窺え、結果的に今回の提案はうまくいったケースとなりました。患者理解とニーズの把握をする上で「その人らしさ」を実現するためには、短い時間だからこそ、その中で観察をし、判断をし、適切な説明が大切であるかを改めて認識した事例でもあります。

看護を日々考える職場風土が適切な連携を生み、患者や家族を思いやる看護を実現できた

 救命救急の現場では、搬送された患者さんがどんな状態なのかを家族は知ることもできずに不安な気持ちでいっぱいです。私たちは、患者さんを診察・処置している待ち時間もできるだけ手が空いている看護師が家族に現状を話し、置き去りにすることはしないように努めています。それは、また私たちが患者さんの立場に立って、またご家族の立場に立って考えるための有効な情報を得る機会にもなります。こうして、日常的に看護の視点を養っていく努力をしています。当院看護部には理念とクレドがあります。私たちの職場では、クレドトークと言って、理念やクレドに適う看護についてみんなに話す機会を設けていますが、それとは別に交換日記のようなクレドトークノートというものがあります。このクレドトークノートに、まるでTwitterに書き込むように難しく考えることなく、自分が実践した看護の話題、それに対する考え、意見、感想のようなものを自由に気軽に書き込むという風土があります。ベテランであれ、若手であれ、看護には正解はありませんから、みんなで自分たちの看護を共有し、お互いに学び合いながら、向上していくことを目的にしています。職場風土の中で、「救命のために行うべきこと第一に考え、その上で患者・家族の思いを聞き対応していくこと」を大切にすることは根付いてきていると思います。これまでの医療では、看護師も医師の治療に対する考えを優先していた時代だったと思います。しかし、私たちが理念やクレドに基づき自分たちの看護を日常的に考えるようになり、患者理解とニーズを前提に、医師に対して看護の視点を踏まえて患者や家族の代弁をすることで、適切な連携が取れるようになってきました。この話は、看護師が主体的に看護に取り組み、医師との適切な連携、他部署の看護師の素早く素晴らしい対応より、患者や家族を思いやる看護が実現できることを示したと思います。