脳性麻痺の患者との関わりを通して学んだこと

脳外科新人看護師 R.T

私の看護観は、患者さんがいつでも不安・悲しみなどの気持を表出することが出来、安心して身をゆだねる事が出来る看護を行う事です。
私がこの看護観を抱くようになったきっかけは、就職して半年ほどたった頃に受け持った患者さん、A氏との関わりからです。A氏は脳性麻痺の患者さんで、全身が硬直し、自分で動かすことが出来るのは両手の指先程度でした。食事、排泄、整容、移動、体位変換など日常生活全てに介助が必要で、その上構音障害もあり何を伝えたいのかも今ひとつ分からず、何回も聞き返す必要がありました。また、A氏は姿勢にこだわりが強く、体位変換では満足のいくポジショニングになるまで何度も微調整が必要でした。毎回クッションを入れる位置のわずかな違いで、「身体の向きを変えて」と、満足するまで5分おきのナースコール、満足するポジショニングが出来たと思っても再びナースコール、というような状況でした。
ある日、他の患者さんの処置、緊急入院が重なり、時間に追われていました。そんな時にA氏からのオムツをかえて欲しいとのナースコール。内心、今は忙しいから後にして欲しい、と思ってしまう自分がいました。今すぐ変えてほしいとの希望でおむつ交換をしたのですが、気が焦っていたこともあり、声かけも強い口調になってしまい、表情も笑顔を忘れていました。そんな時、A氏が「こんな体でごめんな。」と一言。小さく聞き取りづらい声だったのですが、その時の悲しそうな表情、声が今でも忘れられません。自分ではA氏を傷つけるつもりはなかったのですが、結果的にA氏を傷つけ、あのような言葉を言わせてしまったことに対し、自分の不用意な態度に申し訳なさを感じました。それ以来、自分の態度、言葉を改め、どんなに忙しくても、一呼吸おいて心に余裕を持ち、患者が何を伝えたいのか耳を傾け、対応するよう心がけました。すると、A氏がどのポジショニングであれば満足するのか、何を伝えたいのかが分かるようになりA,氏も数回の体位変換で満足し、ナースコールの回数も減少しました。
患者さんは私達が考えている以上に看護師の事をとてもよく見ており、看護師の発言、対応一つに不安、安心など様々な感情を抱いていると思います。A氏の場合は私の態度で傷ついた事を言葉で表してくれた為、知らず知らずのうちに傷つけてしまっていたことに気づくことが出来ました。しかし、看護師の焦り、余裕のなさを態度や言葉から感じても、自分の心のうちに秘めて伝える事が出来ない患者さんも多くいるはずです。
A氏との関わりを通し、患者さんと接する際には心に余裕を持ち、患者さんの訴えに気づこうとする気持ちを持つことが大切であると改めて気づくことが出来ました。今後は、どんなに業務に追われ余裕が無くなってしまったとしても態度にあらわさず、患者さんが気兼ねなく声を書け、不安を表出できるような看護師になりたいと思います。