小児科外来で出会ったA君とお母さん

整形外来 山下光子

私が小児科外来で勤務していた時のことです。小児科外来には様々な病気を持った子供たちが受診に来ています。しんどそうにして来る子供たちはもちろんのこと、検診に来る子供、予防注射に来る子供、元気な兄弟もやってきます。そんな中に障害を持った子供たちもいます。私は、その子供たちや家族の人たちに対してみんな同じように接するように心がけていましたが、少し苦手意識があるとともに、家族の方たちはいつも大変だなあと思っていました。

A君もそんな子供たちの一人でした。A君は車いすに座って、いつもお母さんと一緒に受診する脳性麻痺の子供です。その日もいつもの外来受診で、私はA君に声をかけた後、お母さんに問診をとっていました。どんな状況であったかは忘れましたが、車いすの隣で症状を聞いていました。話している途中で、A君の腕が不意に動いて私の胸に触れるようになったのです。A君は両腕を広げるように不随に動くことが多かったので、私は何とも思わなかったのですが、お母さんは笑いながら「ダメじゃない、看護師さんの胸に触ったら」と言ってA君の腕をパンと叩いてたしなめました。その後も普通に問診は終わりましたが、なぜかそのことが私の中でとても印象に残りました。
普通の子供には当たり前の叱り方をしただけなのに、このA君に対してお母さんが普通にできることに、母としての大きさを感じさせられました。A君をすべて受け入れているお母さんはすごいなあと思いました。そしてその日から、私はA君とA君のお母さんに対して、同じ接し方をしながら見方が変わりました。A君を見かけると、この出来事を思い出しながら診察につき、処置を行っていきました。そして他の障害を持った子供たちに対しても今まで以上に大きな気持ちで接することができるようになったと思います。どのお母さんも子供を思う気持ちは同じです。外来という特性上、接する時間は短いけれどもこのような気持ちを大事にしていきたいと思います。