患者視点で選択肢を考える経験をした治療期から看取りまでの私達の看護

「しんどくないよ。大丈夫。」と我慢を重ね、自分の意思を通す患者さんへの提案

これは南2病棟で入退院を繰り返されていた患者さんへの看護を通して私達が自分達の看護を振り返ったお話です。患者さんは50歳代後半の男性で、血尿訴え前院を受診され、右腎腫瘍、膀胱転移、肺転移が認められ余命1年と告知され、当院に化学療法をする為に入院されました。入院時「不安は大きいけど頑張っていきたい。」「治療法がなければ楽に逝きたい。」「妻も乳がんの手術を受けたばかりで心配を掛けたくないから病状はあまり詳しく話さないで欲しい。」と心境を話されていました。入院後、化学療法を開始すると、倦怠感、食欲不振、嘔気、下痢、便秘、膀胱腫瘍よる頻尿、疼痛などの副作用が現れ、徐々に増強が見られました。しかし、このような状態でも「しんどくないよ。大丈夫。」と我慢されている様子でした。几帳面で自分の意思が強い性格であり、毎日体重、熱を欠かさず測り治療日誌に記載され、排泄は必ずトイレまで歩いていかれたり、シャワー浴は毎後朝6時に入りたいと希望されたり、レスキュー開始後、早めに痛み止めを貰いたいなどの要望を訴えられました。そこで私達は症状に合わせたケアを行う為に、部署全体でカンファレンスを行い、ケアの統一に努め次の様に対応することにしました。

  • 医師に相談し、対症療法で対応。看護師から対応を提案しながら声掛けをする。
  • 食事は栄養士に介入を依頼する。
  • 入院時にはトイレに近い部屋になるように配慮する。尿器の設置を拒否された時は大きめの検尿カップで対応する。
  • シャワー浴は安全面を考慮して、朝6時以降で対応する。
  • 薬剤師に依頼し、レスキューの先渡しシステムを導入する。
  • 緩和ケアチームにも介入を依頼し、レスキューの服用や精神面のサポートをしてもらう。

無理に声掛けはせず、話せるタイミングを探り、患者さんの思いの理解を何よりも優先

しかしこれらの対応も全てがスムーズにいきませんでした。提案しても断られ、しんどそうで声を掛けても返答されない時がありました。また、表情からも機嫌が悪いことがうかがえ、威圧的な態度で医療行為に対して要望されることもありました。患者さんと距離を置くべきか迷い、何が正解なのか分からず悩みました。時には苦手意識を感じることもありました。しかし、ご家族からは、関わったとしても自分を出すようなタイプではないので、私達と患者さんの距離感がちょうどいいと言ってもらえたこともあり、見守る看護を実践しました。無理に声を掛けることはせず、話せるタイミングを探りながら、患者さんの思いを傾聴し、その行動の背景を理解するように努めました。全て計画通りにいくわけではないし、計画を立てていないこともあるので、その時の様子を感じ、タイミングを計りながら、患者さんにとってプラスになるように考え行動しました。ある日、病状がかなり厳しいことをご家族に伝え、本人も含めてインフォームドコンセントを実施し、年末一時帰宅を目標としました。しかし患者さんは帰ることで家族に迷惑をかけてしまう、弱い自分を見せたくないという思いがあり、またご家族も帰ってきて欲しいが、自宅で何かあった時の不安があり、そういう不安を本人には気づかれたくないという思いがあり、互いの思いがすれ違い一時帰宅は叶いませんでした。このことで、私達は、もう少し早くご家族に現状を伝えフォローやケアを行い一時帰宅できるようにするべきだったのかと考えさせられました。

フラフラな患者さんの意志に寄り添い、スタッフで交代に10分置きのトイレ移動の介助

病状が悪化し、トイレに行くこともままならない状態であっても、尿道留置カテーテルや尿器を嫌い、トイレには自分で行きたいという意思をお持ちでした。尿道留置カテーテルを入れた方が本人も楽であろうし、フラフラな状態で転倒しないか心配でしたが、患者さんの思いを優先しました。私達は交代で10分置きのトイレ移動に付き添い介助をしました。最期はご家族の時間を大切に過ごしてもらう為に頻回な訪室は避け、ご家族の希望で心電図モニターは装着せず過ごしてもらいました。そして、ご家族に見守られながら息を引き取られました。南2病棟は、入退院が激しく、入院期間が短い患者さんが多い反面、この患者さんのように治療期から看取りまで長期に関わる患者さんも少なくありません。末期がんと告知され死のうと考えられていましたが、前院の看護師さんの一言で思い留まれたそうです。その後、私達の病棟で過ごされ「ここにきて周りのみんなが同じように治療しているのに明るい。ここの病棟の明るさや雰囲気が嬉しく、この病院で治療をしようと決めた。最期はこの病棟で過ごしたい。」と話していたそうです。また亡くなられた後、息子さん娘さんが数回病棟に来られ「ここに来るとお父さんに会えるようで・・」とデイルームで過ごしていました。
この患者さんから見守る看護、その人らしさを尊重する看護を学び、一般病棟でも緩和ケアをしてもいいことを学びました。つまり、看護をする上で選択肢を考える視点を得ました。他職種、専門チームと連携を取り、意見を出し合い、振り返りの機会をつくり、その人らしさを尊重した看護の質をさらに高めていきたいと思います。