大切にしている看護を立ち返れたベッドサイドから変えていくせん妄・認知症ケア

南4病棟

私たちの気持ちと裏腹に、入院患者さんを怒らせるジレンマに悩まされた1週間

 これは、ある認知症患者に対して実践した私たちの病棟の看護のお話です。90歳を越えられているこの患者さんは、入院5日前より感冒症状があり、発熱と気管支肺炎により入院されました。医療的なことでは、気管支喘息、胆のう炎、胆管炎、認知症があり、認知症の程度でいうと見当識障害がありました。発熱による身体症状の悪化からせん妄が強く出現し、治療についての理解がないままに入院されたので、点滴や酸素投与による拘束感から混乱し、さらに身体抑制を受けるという状況にありました。日常生活においても、もともと怒りっぽく、無口で、自分の生活スタイルがあり、自らのテリトリーに入って来られることを強く拒否されるところがあるらしく、入院当初から看護師に対して全身全力で抵抗されていました。例えば、気管支肺炎に対して点滴や酸素投与を行っても、チューブ類の拘束感からその身体的苦痛から逃れるために、点滴や酸素チューブを自分で外されました。また、実行機能障害による失禁があったため、清潔を保つためのケアを促しましたが、デリケートゾーンに触れられることに強い拒否を示されました。しっかりケアをして、少しでも早く楽にさせてあげたいと思う私たちと、私たちの行為を自分にとって嫌なことばかりする看護師たちと認識する患者さんとの視点の違いがあり、私たちの気持ちと裏腹に、この患者さんを怒らせ続けて、余計に悪化させていくというジレンマに悩まされました。こんなことが約1週間続きました。しかし、私たちも、このままにしておくわけにはいきません。

家族と協力し、患者さんの性格や生活パターンを尊重し、見守りに徹した看護に仕切り直し

 私たちは仕事をする上で、「認知症患者の身体症状と患者背景を理解し、安全・安楽・自立(自尊心)を支援したケア」を日々大切にしています。その原点に立ち返り、患者さんとの関わりにおいて信頼関係を築くことから仕切り直しをすることにしました。そこで、高齢者や認知症患者に有用とされている包括ケアメソッドであるユマニチュードの「見つめること」「話しかけること」「触れること」の技術を病棟スタッフで川村が実践した動画を見て学び、共有し、実践しました。見当職障害があり、他者との空間に壁があるので、看護師を認識してもらうために真正面から声を掛けるようにしました。また、怒りを促さないように、圧倒するようなトーンの声掛けはしないように注意し、触れることに対しても必要以上に触れないように心掛けました。運動機能には問題がなかったので、残存機能を活かして、見守りのケアを徹底しました。また、医療面においては、必要以上の点滴継続は自己抜去のリスクを高めるので、夜間は点滴ロックにしました。酸素投与もできるだけ早く中止できるように廃用予防に努め、適宜、酸素量の減量を図りました。私たちと共に重要な役割を担って頂いたのがご家族である娘さんでした。私たちは娘さんに現状をお話しし、点滴や食事についての話を娘さんから伝えてもらうようにしました。患者さんが私たちから同じことを何度も聞かれ、その都度同じことを答える億劫さを感じないように、娘さんが来られた時は、その日はどんな時間を過ごされてきたのかを私たちにも置手紙などで報告下さいました。そして、私たちも、患者さんが入院生活に過度の負担を感じないように、できる限り患者さんの生活パターンに合わせるようにしました。このように関わっていくことで入院10日目あたりから関係性はよくなり、普通に会話をできるようになっていました。

自立支援により快方に向かう患者さんの姿に、大切にしてきた看護に自信が繋がった経験

 実際に、患者さんに対してできるだけ抑制しないように、必要時のみに抑制を行い、家族の見守りを依頼しながら点滴治療をおこなった効果があり、気管支肺炎は改善しました。また、見守りは必要ですが、日常生活において自立できるようになりました。私たちが日々大切にしていることに立ち返り看護を実践したことにより、私たち自身も多くのことを学び、また自信に繋がる経験でした。認知症患者が体験している空間を理解することを前提にして、その人の気持ちに寄り添うことを考えに考えてスタッフ全員で共有することができました。また、患者の急性期にはゆっくりと信頼関係を築くことが難しい状況の中で、家族にきちんとした状況の説明をすることで、症状が改善するまでの間において協力の必要性について説明し、連携・協力を得ることができました。また、これまで治療優先で、抑制しなければよくならないという認識でいましたが、必要以上に抑制せず、自尊心を大切に自立支援していくことで患者さんが良くなっていく様子を見て、私たち看護師が医師に対しても患者さんについての適切な提案をしていくことが大切であることが認識できました。気管支肺炎が改善したので、地域包括病棟に転棟となりましたが、異なる環境で関係性が振出しに戻らないように患者さんの背景や性格を詳細に申し送るなどもできました。転棟後は、病棟の時間に縛られることなく、自分の時間感覚で療養されていました。例えば、センサーマットが鳴っても、スタッフはそっと見守るだけに留め、見守りはあるが決して本人の行動を取り上げずに、本人主体で自分の意志で行動し、自尊心を保ち他者との調和ができるようになっていらっしゃいました。私たちが認知症ケアを大切に考えてきたこと、また、ご家族や医師、転棟後の病棟の理解と協力による連携ができたことの結果ではないかと思います。