その人らしさを支える看護にこだわりたい
~入退院を繰り返す心不全患者の退院後訪問を通しての学び~

自宅療養する中でつい無理をしてしまうAさん

 私たち循環器病センターでは、センター独自の入院前情報シートを使って生活上の問題点を抽出し、退院前確認シートで退院後の生活を見据えた看護介入をしています。しかし入院中の関わりだけでは再入院は減少せず、特に心不全の患者さんは、生活上の自己管理不足が再入院の大きな原因であることは明らかで、今回関わったAさんもその1人でした。Aさんは86歳の女性で、これまで何度か心不全で入退院を繰り返していました。
 Aさんは息子さん夫婦と同居しており、塩分制限や内服管理はご家族の協力で行えていましたが、調子が良くなると田んぼで草抜きをし過活動で入院となっていました。入院の度に心臓に負担がかかる活動を控えるように指導しましたが、効果が見られません。なぜだろうという思いと退院後の生活を実際に看護師がみることで療養上の提案が出来るのではないかと考えました。今回在宅酸素療法(HOT)導入を機会に、退院後訪問を実施することにしました。訪問前には医師、看護師、リハビリ、栄養士、薬剤師などの多職種でカンファレンスを行い、それぞれの視点からの問題点や観察事項、指導内容を検討しました。

その人らしさを大切に患者・家族と共通認識して接する

 退院後の1週間というのは患者さんにとって環境の変化と不安で、体調を崩しやすい時期でもあります。Aさんも、初回外来受診日は2週間後であり、私たちはやや遅れましたが、退院後9日目に訪問することが出来ました。
 訪問時の確認事項としてまず、バイタルサイン測定や身体症状の観察、体重測定、残薬確認等を行いました。一度自室から下膳しようとし転倒したことがあるとの事で、酸素の延長チューブを引っ掛け転倒しないようにと、お嫁さんがまとめてくれていました。自室からトイレまでは10歩程度で家具などを伝って歩いていると言われていた為、転倒のリスクを考え、屋内でもシルバカーの使用を提案しました。退院後は酸素の付け忘れが頻回にあったようですが家族の声かけで装着でき、入院中たびたび見られていた過換気の症状も退院後1回のみで、ご家族の協力を得て療養環境に大きな問題はありませんでした。
Aさんはディサービス以外は自宅で寝ている事が多いようでしたが、「草でも引けたらなあ」と言い、下膳もしなくていいと言ってもしてしまう様でした。入院中は看護師に任せている事も、自宅に帰ると家族の一員として役に立ちたい、迷惑を掛けたくないという気持ちが過活動の原因になっているのだと感じました。ご家族も無理のない程度に出来ることはさせる方針で、Aさんにとってはその方が精神的に落ち着いて過ごせるのだろうと思われました。
 ディサービススタッフやご家族には体調の変化に気づいた時は、早めの受診を勧め、たとえ再入院となっても症状の軽いうちでの入院は、心機能を維持し早期の退院に繋がる事を説明しました。心不全は現状をいかに維持していくかが、AさんがAさんらしく生活していく上で大切なことと確認し合いました。

その人らしく生きることを支える、連携の中心的存在としての看護師

 Aさんは、病院で顔見知りの私たちが訪問すると、とても明るい表情で迎えてくれ「来てくれたら安心する」と言ってくださいました。自分の日常生活の出来事を嬉しそうに話すAさんを見て、私たち看護師を頼ってくれている事を実感しました。ご家族もAさんの意思を尊重しつつ、出来ない事を自分達が引き受けるという意識でおられた為、安心して訪問を終える事が出来ました。
 こうして得た退院後訪問の情報を多職種と共有し、今後の方針について話し合いました。かかりつけ医からは、外来で長時間ソファーに座って待つのは大変だから、訪問診療に移行してはどうかとの提案がありました。その人その人に合った方法を多職種で検討する事、そして本人やご家族が安心して療養生活を続けられるように連携を図っていく事の大切さを学びました。
循環器病センターでは、Aさんの他、7名の患者さん宅を計16回訪問しました。自宅での生活を実際に見る事で退院後の生活がイメージ出来、入院中の指導に活かしています。人それぞれ長年の生活スタイルがあり、思いがあり、看護師の一方的な指導では生活習慣を変える事は困難です。個々の患者さんの生活背景を知り、病状の許す限りその人らしい生活を送る為に私たち看護師が出来る事は何かを考えながら関わっています。
その人らしく生きること…
それは患者さんの想いを尊重しながら、自宅での生活をより良い状態で、より長く続けて行く事。その為に私たちセンター看護師が連携の中心となって、その人らしく生きることを支えられる存在になりたいと思います。